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【ギャラクシー賞テレビ部門10月度月間賞】-「GALAC」2020年1月号

「ポツンと一軒家 2時間半スペシャル」
10月13日放送/18:30~20:56/朝日放送テレビ

ラグビーワールドカップ日本躍進の象徴となったプールA・スコットランド戦のまさにその日、レギュラー放送1周年スペシャルは世帯視聴率が関東・関西共に16%超。番組に安定した支持層があることを示す結果となった。取り上げてきた一軒家で暮らしている人はなぜだろう、みな元気で表情が明るい。それを伝え続けてきたこと、そして中高年を中心にしっかりした視聴基盤を構築したということがまず評価できる。
番組は一軒家で暮らす住民にスポットを当てその人生ドラマに迫りながら、MC陣が視聴者目線でその報告を見るスタイルを取る。普通の都会暮らしでは味わえない自然や風土などが見られる紀行的要素も人気の要因の一つだ。今回のスペシャルでは、まず一軒目に北海道の原野の森のなかで暮らす夫婦が登場。ひょんなきっかけから絶滅が危惧されるシマフクロウの保護に乗り出し、コツコツと個人でそれを続けてきた生活が紹介される。しかしその様子を通じてシマフクロウがいかに貴重な鳥であり、その生態はもちろん、保護のためにどれだけの手間が必要なのかが、彼らの一軒家での生活から見えてくる。
そのテーマを報道やドキュメンタリーで取り上げることは可能だろう。しかし保護のために場所や住所などを特定できないよう制限しつつ、かつわかりやすく伝えることは難しい。人物バラエティの形態を取るこの番組だからこそ可能となったともいえる。
二軒目では同番組でかつて話題となった山奥の神社を再訪、番組で取り上げたことが契機で人生そのものが幸福に大きく変化した様子が紹介され、番組の「効果」が検証される。また三軒目では祖父母と暮らそうとする高校生のひたむきな姿から、地域と高等教育の問題を考える大きなきっかけも得られていく。
この番組はもはや単に家族愛や紀行を要素とするのではない。その暮らしざまから実に多様な社会問題やテーマに取り組むことができる、テレビ番組の新たな可能性を示唆してもいる。それが視聴率にも表れているのだといえるのかもしれない。(兼高聖雄)

NHKスペシャル
「東京ブラックホールⅡ 破壊と創造の1964年」
10月13日放送/21:00~21:59/日本放送協会

現代日本を生んだ終戦直後の混沌とした「闇」のなかに、見事な合成技術で山田孝之をタイムスリップさせた第一作から2年。今回送り込んだ先は「1964年東京オリンピック」の「闇」だ。前作より進化した合成にも目を奪われるが、「TOKYO 2020」前夜の今だからこそ立ち止まって考えさせられたことが、委員12人中8人推薦という高評価に結びついたようだ。
まずその八人八色の感想を紹介しておきたい。「希望に満ちていた時代の陰にあった五輪前夜の闇の部分がしっかり描かれ、前作よりブラックホール感が強く出ていた」「『三丁目の夕日』的に美しく描きがちだが、実は日本全体がブラックだったことが衝撃」「公害から身を守る子どもたちの黄色く着色されたマスクが負の面を強烈に表現している」「東洋の魔女たちの苦悩や五輪景気の失速を知ってショックだった」「建設現場の下請け、孫請けの労働者が酷使されるなど、忘れられた戦後の闇を克明に描いている」「他国に対して不衛生とか遅れていると軽視しがちだが、当時の東京も同じような状況だった」「前回に続き山田孝之は適役。どの時代に行ってもはまる」「テレビは五輪無関心派や批判派をも巻き込んで日本中の空気を一変させた。テレビが持つ怖さを自画像として描いている」「非正規、貧困、離農……五輪のツケは現代と相似形をなし、私たちへの問題提起になっている」など。
各委員に共通するのが、1964年東京オリンピックの成功体験の陰に隠れてしまった負の部分に言及していることだ。ハードディスクなら復旧できても、人間の脳から忘れ去られたものを修復するのはきわめて難しい。しかも2020年に成功(するかどうか断定できないが)してしまうと、さらにそれは困難になると、この番組は警鐘を鳴らしていて、ブラックホールに呑み込まれないためには、デリートされない記憶領域を確保する必要性を説いている。わが地元の心の文化遺産とも言うべき東神奈川の名バー「スターダスト」を、あのようにBar KOYUKIとしてラストシーンに使ったセンスにも拍手を送りたい。(福島俊彦)

NNNドキュメント’19 「なかったことに、したかった。未成年の性被害①」
NNNドキュメント’19 「なかったことに、できない。 性被害② 回復への道は」
10月6日、13日放送/25:10~25:39、25:05~25:34/日本テレビ放送網

性犯罪の被害者の4割は子どもで、加害者の8割が顔見知り、というデータがあるという。番組に登場する女性たちは、子どもの頃に遭った性被害について、思い出したくはない出来事であろうことを、語る。
その多くが、教師や父親から被害を受けており、「これはみんながやっていること」「大切な子にすることなんだよ」と言われることで、納得させられていたとがわかり、何も知らない子どもの状況を巧みに利用していることにまず腹が立つ。
周りの子は、拒否したことで被害を免れていると知ると、今度は自分が悪いのではないかと思うようになったり、あまりにも辛い思いをしたことで、あったことをなかったことにしたくなることも多いという。
また、被害者から共通して聞かれるのが「ドブみたい」「下水」「毒壺」と、自分自身が汚いもののように思っている言葉だ。ある女性は、過食嘔吐をして自分のなかから「汚物」を出そうとしたとさえ語る。
現時点で頼れるものとして、法律があるはずだが、日本では2018年に刑法が110年ぶりに改正されたものの、13歳以上の場合は、強い抵抗がなければ加害者を罰せられないという。暴行に強い抵抗をすれば命にかかわることもある。こうしたことでも、「なかったこと」にされているケースは多いのだ。
番組では、セカンドレイプについても説明する。家族や近しい人がよかれと思って言った「忘れなさい」という言葉がいかに彼女たちを傷つけるか。
こうした状態を少しでも打開するには、周囲の人が「あなたは間違ってないよ」「辛かったね」と肯定することで、精神科の医師も「言っていることを信じてあげること」だとし、そしてPTSDの治療が有効だとしてすすめる。
被害者の女性たちが辛い気持ちを語る姿を見るのは、胸が痛むが、語ることで少しでも気持ちが安定したのならいいと思うし、この番組を見た人が、ひとりでも見て見ぬふりをしないことが、この番組を作った人の願いだと感じた。(西森路代)

有田Pおもてなす
「P55ムロツヨシ シソンヌ&ラバガが珠玉のコントを披露!」
10月19日放送/22:10~22:45/日本放送協会

くりぃむしちゅーの有田哲平がプロデューサーとなり、ゲストに合わせてカスタマイズしたネタを披露する「有田Pおもてなす」。有田Pの無茶振りに応えて新しいネタをつくっていく芸人たちの匠の技が光る本番組に対しては、これまでにも月評会で評価する声が上がっていた。このムロツヨシがゲストの回では、この番組のすべての要素が嚙み合った、ここでしか見られないコントが披露され、月間賞となった。
今回ネタを披露したのは、シソンヌ、ジェラードン、ラバーガール、かが屋。まさに今見たいコント師たちが揃っている。なかでも出色だったのが、ラバーガールのコントだろう。
有田Pとの打ち合わせで提示されたのは、「四千頭身の後藤とツッコミの飛永、オードリーの春日とボケの大水がネタの途中でさりげなくすり替わること」「さらに、ヨーロッパ企画の俳優二人ともすり替わること」。この打ち合わせで芸人が困れば困るほど見る側は楽しくなってしまうのだが、「二人の世界観は壊さずに」という再三の要求に苦笑するしかない二人に、気持ちがどんどん盛り上がる。
そして完成したのは、「すり替わり」を脚本の骨格に据えた、真っ向勝負のネタだった。まずは、ラバーガールと並んで違和感のないテンションの後藤から俳優二人にうまくつないで、スムーズな入れ替わりで笑わせる。そのなかで、どうしたって「さりげなく」はできない春日の登場に向け、物語が組み立てられていく。低体温なラバーガールと「春日が来る!」という熱量の掛け合わせで、絶妙な期待感が醸成されていた。
ゲストのリクエスト、有田Pによる無茶振り、困る芸人たち、無茶振りがあったからこそ生まれた脚本とそれを演じきる出演者。すべての要素が嚙み合って、「有田Pおもてなす」という番組があるからこそ生まれたコントを見ることができた。
今回の月間賞受賞は、このコントの面白さはもちろん、これまでに出演した芸人たちの技術と熱量の賜物だということを重ねて記しておきたい。(藤岡美玲)

★「GALAC」2020年1月号掲載